1862(文久2)年、横浜・入船町に、日本初の牛鍋屋「伊勢熊」が開店した。
当時、横浜の居留地には多くの外国人が暮らしており、神戸などから牛肉を取り寄せて食卓に並べるようになっていた。それを知った居酒屋の「伊勢熊」主人が、いち早く牛鍋屋のアイデアを思いついたものの、妻の猛反対にあい、店内を半分に仕切ってその半分だけを牛鍋屋に改装したが、その牛鍋屋が大繁盛し、結局専門店になったのだという。
これを皮切りに、横浜や東京で牛鍋屋が次々にオープン。そこでは、牛鍋とともに「新しい飲み物」であるビールが盛んに消費された。値段は日本酒の10倍以上もしたが、それでも「一度味わってみたい」と注文する新しもの好きが後を絶たなかったという。「文明開化」の味の象徴ともいえる牛鍋は、そうしてビールの普及にも一役買うことになったのである。