世界各地で飲料文化を育んだ「茶」とは何か
私たちは日々、お茶を飲み続けてきました。日々の食事の中で、あるいは仕事の合間にと昔から口にし、また現在に至っては種類も飲み方も様々に変化したものを選び、楽しんでいます。近年では科学的見地からその成分や効用が謳われており、健康への好影響も見直されているようになっています。数ある飲みものの中でも特に広く飲まれているお茶は、それを嗜好してきた人々の文化です。そしてお茶を飲むことで広がるコミュニケーションを大切にする毎日の生活が、それぞれの地域で営まれています。
日本茶、中国茶、紅茶など、世界各国のお茶は中国原産のひとつの植物「チャ」の葉から作られています。同じ植物の製品が、異なった製法や飲み方でこれほど広く受け入れられている植物は他に例を見ません。しかしながら、植物学的な視点から見た「チャ」の姿については、あまり知られていないことが多いようです。ここでは、植物(The plant)としての「チャ」と、そこから作られる飲むための「茶」について考えていきます。
紅茶も日本茶、中国茶も同じ木から生まれる
チャの木とチャの花
ツバキ科の植物であるチャは、8月の終わりから11月頃にかけて、枝先に白い花を咲かせます。その形状は、他のツバキ科の仲間たちともよく似ています。
※1:牧野富太郎博士はチャとツバキを別属としていますが、同属とするのが一般的です。
出典・参考資料:
●磯淵猛著『紅茶事典(新星出版社)』
●高知県立牧野植物園『平成17年度企画展 植物からの贈りものシリーズ第3回 茶の話』より
そもそも、植物としてのチャの木の起源はどこにあるのでしょうか?
8世紀、唐の時代に活躍した文人・陸羽(りくう)は、彼の著した『茶経』の中で、「茶は南方の嘉木(かぼく)なり」と記しています。陸羽は、現在の湖北省のあたりに住んでいたといわれています。中国のほぼ中央に位置する湖北省からの「南方」が、どのあたりを指すのか定かではありません。
チャの原産地については、各国の学者が諸説を唱えています。「福建省の武夷山周辺」という説や、中国の西の果て、ミャンマーの国境に近い「雲南省」や「四川省」という説もあります。現在も、科学的な検証や文化人類学的な考察が加えられており、原産地の特定にはまだ多くの研究が待たれるところですが、中国の南方域であるということはほぼ間違いがないようです。
当初、茶畑も製茶場も見たことのなかったヨーロッパ人は、色や味の異なる緑茶と紅茶は、全く別の植物から作られていると考えていました。それも、チャの原産地を複数と考えた原因となったようです。
実際のところは、同じ木から摘んだ葉が、製法によって風味の違うさまざまなお茶に加工されています。学名でカメリア・シネンシス(Camellia sinensis)といわれるツバキ科の植物が、緑茶・中国茶・紅茶などの、すべてのお茶の材料なのです。
カメリア(Camellia)とはツバキ属の属名で、ツバキ(Camellia Japonica)やサザンカ(Camellia sasanqua)にこの名前がつきます。ツバキの仲間は花を観賞したり、実からとられた油(椿油)を化粧品(整髪剤)や食用に使ったり、幹は薪炭材(しんたんざい)として使用されるなど有用植物として人に親しまれてきました。
ツバキ科のツバキ属は、インド、ミャンマーからインドシナ、フィリピン、インドネシア、中国、朝鮮、日本に約200種が分布します。中国が種の分化の中心地で、暖温帯から亜熱帯の常緑広葉樹林帯(じょうりょくこうようじゅりんたい)が起源とされています。※1
チャの木とチャの花
ツバキ科の植物であるチャは、8月の終わりから11月頃にかけて、枝先に白い花を咲かせます。その形状は、他のツバキ科の仲間たちともよく似ています。
※1:牧野富太郎博士はチャとツバキを別属としていますが、同属とするのが一般的です。
出典・参考資料:
●磯淵猛著『紅茶事典(新星出版社)』
●高知県立牧野植物園『平成17年度企画展 植物からの贈りものシリーズ第3回 茶の話』より