ビールの価格の最も古い記録は、1871(明治4)年頃の西洋料理店「南海亭」の品書きが書かれた引札(チラシ)にみることができる。それによると、ビールの価格は次のように記されている。
※( )内は金1両=銀60匁=銭4000文=1円として「銭」に換算した数字
ビイル 麦酒大一本に付 金三朱ト銭三百文(約26銭)
同 〃 小一本に付 金一朱ト銭四百五十文(約18銭)
同 〃 コップ一杯に付 金一朱ト銭百文(約9銭)
この引札によると、南海亭ではビールのコップ売りも行われていたことが分かる。
小びんに比べればコップ一杯のほうが手軽に飲めたといえるが、ビール一杯約9銭の値段は他の料理に比べると決して安くなかった。南海亭で出されていた西洋料理と比べると、当時ビールがいかに高級品であったかが分かる。
ソーフ 日本の吸物 二匁五分
フライヘイシ 日本の天ぷら 一匁五分
ヒフテキ 牛のてりやき 二匁七分
パン 舶来小麦製 一匁六分
コヘイ ひき茶代り 一匁二分
右一席御一人前 金二朱ト銀二匁(約16銭)
ライス 日本上白米御膳 一匁二分
シチウ 牛、鳥うまに 二匁五分五リン
右一席御一人前 金一朱(約6銭)
ライス、シチュー付きの料理よりコップ一杯のビールのほうが高く、びんビールともなれば、ビフテキが付いたフルコース料理よりも高額だったのである。
南海亭の品書きが書かれた引札(チラシ)(東京大学総合図書館 蔵)