「キリンビール」の一手販売を手がける明治屋は、斬新な広告・宣伝を次々に展開することで有名だった。そして、数々のユニークな広告や宣伝の中でも特に大きな評判を読んだのが、1909(明治42)年につくられた「ナンバーワン自動車」である。
これは、明治屋が「キリンビール」の配達・宣伝用に英国から輸入した車で、警視庁登録番号が「第1号」だったことから、ナンバーワンの愛称で呼ばれた。ビールびんの形をしたボディーをつけ、そこには大きなラベルのデザインが施されていた。自動車そのものがまだ珍しかった時代に、この奇抜な車は道行く人の視線を集め、抜群の宣伝効果を上げることになったのである。
のちに、このナンバーワン自動車は、車体を幌のものに変えて、
東北地方への「宣伝旅行」にも出発。物珍しさで大きな評判を呼んだという。ただし、乗る社員のほうにとっては決して快適なものではなかったらしく、実際に乗車した経験を持つ社員のひとりは「恐るべき乗り心地でした」との言葉を残している。道路の悪事情もあって、東北巡業の最後には車が動かなくなり、最後は汽車に乗せて東京へ戻したというから、その苦労ぶりがしのばれる。
その後、ナンバーワン自動車は1923(大正12)年の関東大震災で焼失してしまった。その車体の残骸は今でも、東京・墨田区の横網町公園にある東京都復興記念館前に展示されている。