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コラム

1930年

昭和恐慌とビール

1930(昭和5)年、世界恐慌の影響を受けて昭和恐慌が発生した。戦前に日本で起こった恐慌の中で最も深刻なものとなった昭和恐慌により、株式・商品市場が暴落、中小企業の倒産が相次ぎ、失業者が街にあふれることとなった。

この不況が、各家庭の家計に影響を及ぼしたことはいうまでもない。軽妙な文章を付けた漫画で一世を風靡した世相風俗漫画家・岡本一平の家庭漫画(『一平全集』第13巻)には、次のような描写がみられる。夫の膳の横には、すでに飲んでしまったビールびんが2本。「ビールはもう二本あがつたら澤山です」と、これ以上飲まれては家計の負担になると、ビールを後ろに隠す妻。妻の小言も聞き飽きているので、夫は針仕事をする妻の横顔を盗み見ながら、竹の衣文掛(ハンガー)を使って3本目のビールをそっと引き寄せている。

昭和初期のビールは、1本30〜40銭であった。晩酌に毎日ビールを3本飲むと、1カ月に30円以上かかることとなる。一般企業の課長クラスの月給が当時100円であったから、不況の折、この漫画の妻が「ビールは2本で十分です」というのも無理はなかったのである。
「晩酌にビール」(岡本一平画)

「晩酌にビール」(岡本一平画/『増補一平全集 第13巻』大空社)


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