1860(安政7)年1月、初の幕府遣米使節団を乗せたアメリカ軍艦ポーハタン号が横浜港から出港した。この船上で使節団一行がビールを味わったという記録が、使節団の記録係として参加していた仙台藩士、
玉虫左太夫による日記『航米日録』にある。
これによれば、初めて一行がビールを口にしたのは、横浜港を出て20日目の2月3日(西暦で2月24日)、アメリカ「建国の父」ジョージ・ワシントンの誕生日記念パーティーの席だったという。ワシントンの誕生日は本来この2日前だが、悪天候のため延期になったらしい。玉虫は初めてビールを味わったその感想を「苦味ナレドモ口ヲ湿スニ足ル」と書いている。あくまで冷静な口調ながら、ほかの西洋料理については「臭気が鼻をついて口に合わない」と切り捨てていることから考えると、ビールはそれなりに玉虫の口にも合ったということだったのではないだろうか。