涼しい風が吹き始めるとビールを飲む気分も変わります。そんな“気分のスイッチ”をあらわしたいと開発された「キリン秋味」。発売から長く愛され、秋の定番ビールとなりました。
ビールの爽快なのどごしを楽しんだ夏が過ぎ、秋口に差し掛かると、その気分も少し変わってくるものです。しかし今では、秋の風を感じると飲みたくなる、そんなビールがあります。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、人々の嗜好の変化に合わせてビールが多様化し、各社から様々な新商品が発売されていました。その中でも季節限定ビールは、味覚、ネーミング、パッケージにいたるまで季節感を反映させ、各シーズンに登場しました。これらの先駆けとなったのが「キリン秋味」です。それは、夏の最盛期を過ぎ、1年の中でもっともビールへの熱が下がる“秋の限定ビール”への挑戦でした。
涼しい風が吹き始めるとビールを飲む気分が変わる、そんな“気分のスイッチ”を感じられるビールを、と秋の限定ビールのコンセプト会議は始まりました。この頃、ビールといえば夏に喉を潤す、のどごし良く、ごくごく飲むものというイメージがありました。実際、秋口になるとビールの需要は一気に冷え込んでいたのです。では、秋に飲みたくなるビールとはどのようなものか。それはまさに、お客様の生活の中で“秋のビール”という新しい飲用シーンをつくること。ビール文化を拡げていくことでした。当時は秋限定のビールは存在せず、事前の消費者調査でも、顕在化していないニーズを探るのは試行錯誤でしたが、最終的に到達したコンセプトは、日本ならではの実りの秋、食欲の秋を味わい、夏よりも少しゆっくりと、心地よく飲むビール。キーワードは、「豊饒(ほうじょう)」です。通常ビールの1.3本分と、麦芽をたっぷり使用し、アルコール度数も当時としてはかなり高めの約6%に設定し、“豊かな味わいと心地よい酔い”を楽しんでいただけるビールに仕上げました。パッケージも秋の豊かな実りをあらわす、黄金色の稲穂を配したデザインが採用されました。おいしさをストレートに感じられるよう「キリンビール秋味」と名付けられたビールは、1991年9月11日に発売、多くの方に“秋を楽しむ”というビールの新しい飲用シーンをお届けすることになりました。
「キリン秋味」は翌年、新しいパッケージで、再登場します。そこには、日本の秋の到来が一目で感じられるデザインとして、中央に紅葉が描かれました。発売初年度は、コンセプトである“豊穣”を全面に打ちだしたのに対し、一定の認知が高まった2年目は“今年もやってきた”という新しい季節の到来こそが、魅力になると考えたからです。以降、年を追うごとにこの紅葉は彩りを増し、日本の秋を想起させる赤と黄金色のパッケージが定番となりました。1994年には中秋の名月を思わせる満月が描かれ、その後も秋の風物詩として何度か登場します。紅葉に染まった秋の山々を翔けるように配置された聖獣麒麟とあわせ、秋の到来を感じさせるデザインです。
やがて1990年代後半になると、季節限定ビールのブームが一段落しましたが、「キリン秋味」は飲めば違いのわかる、コクのある味わいで多くのお客様の心をとらえ、流行の波を超えて愛されるロングセラーブランドとなりました。また、秋の食と「キリン秋味」との連動をはじめ、1998年からは秋の食材を使ったレシピを紹介するなど、秋の楽しみを付随し、日本ならではの季節を楽しむビールの地位を確立しました。