神話の時代から飲まれている「茶」
すべての茶の歴史を辿るためには、まず中国から始めなければなりません。漢方発祥の地でもある中国での茶の起源は、すでに記録の存在しない神話の時代から薬用されていたものとして伝えられてきました。
唐の時代に著わされた『茶経』には、「茶の飲たるは神農氏に発す」(茶を飲み始めたのは、神農氏からである)とあります。神農氏は、中国神話上でも農業神・医薬神として信仰を集める、中国太古の伝説的な帝王です。「百草の滋味を嘗め、一日にして七十毒に遭う」(百草をなめて毒か薬かを調べ、一日にして七十もの毒にあたった)とされていますが、その解毒に、荼(と)という植物を用いたと伝えられています。
太古の「荼」が、現在私たちが飲んでいる「茶」そのものなのかは定かではないようですが、時代を経て文字としても「茶」に置き換わっていきます。三国志にも、「荼」にかわり私たちになじみのある「茶」という文字が使われ、飲用の記述がみられることから、漢代にはすでに「茶」が飲料とされていたことがわかります。
『茶経(ちゃきょう)』陸羽(りくう)著 760年頃
茶のバイブル「茶経」。巻初に「茶は南方の嘉木なり」
(茶は南方に生育する良い木だ)と読める。
(資料提供:高知県立牧野植物園)
長い歴史と広大な大地が生み出した、1000種を超える「茶」
茶は薬用としてはじまりましたが、漢方薬や喉の渇きを癒すための飲み物にとどまらず、コミュニケーションを深めるために役立つものとして広まっていきました。また中国の長い歴史と広大な大地は、各地に様々な種類の茶を生み出しました。その数は1000を超えるとも言われるほど膨大ですが、製法と、茶葉・水色(お茶の抽出液の色)によって、6つに分類することができます。
茶葉は、摘んだ後放置すると、茶葉自体が持つ酵素の働きで、酸化発酵を始めます。その働きを利用し、茶は作られています。(第1話「茶の植物学」)
その酸化発酵の度合いを調整することで生み出された中国の茶。1978(昭和53)年、安徽(あんき)農業大学・陳椽(ちんてん)教授は、1000種以上ともいわれる中国の茶を発酵度をめやすとして「六大茶類」に分類することを提唱しました。摘んだ後すぐ加熱し発酵を止めた「緑茶」から、完全に発酵をさせた「紅茶」までを、その発酵度合で5段階に分類。それに、茶葉本来の発酵に微生物を用いた発酵を行わせる「後発酵茶」を加えた6分類としました。
長い年月をかけて、それぞれの地域の気候環境や食文化が生み出した多種多様な茶。陸路を通じ、数多くの民族が茶の伝播に関わった(第2話)ことも、多様化の理由だったかもしれません。
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