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紅茶の話

第4話 英国の王侯貴族と紅茶

2 イギリスに紅茶を定着させた女王[18世紀 クイーン・アン]
クイーン・アン

クイーン・アン

ティーカップのイラスト

紅茶を引き立てる美しいティーカップ


(資料提供:いずれも紅茶研究家・磯淵猛氏所蔵品)

イギリスへ最初に渡った紅茶は、ボーヒー茶と呼ばれる発酵茶でした。ボーヒー(またはボヘア)は、福建省にある茶の産地、武夷を英語読みしたもので、イギリス商人が駐在するアモイの近くにありました。1689(元禄2)年、イギリス商人はここで作られるボーヒー茶を中国から直接買い付け、ロンドンに送ります。最初はオランダから緑茶を買っていたイギリスも、東インド会社を設立したことで独自に交易を行うことができ、こうしてイギリスの水に適した紅茶を購入することになったのです。

緑茶よりも渋みのある紅茶は砂糖との相性も良く、こうしたことが茶を薬用から嗜好品へ、またそれを飲むシーンが社交の場へと、イギリスにおける喫茶文化を発展させていったのでしょう。

18世紀に入ると、のちにイギリスの女王として即位したアン・ステュアート(クイーン・アン在位1702〜1714)は、お茶を一日に何度も飲むという習慣に定着させました。

美食家だった彼女は大のお茶好きでもあり、朝食には必ず紅茶を飲み、ロンドンのウィンザー城に茶室を作らせるほどだったといわれます。宮廷では、女王を真似して茶道具を揃え、日に6〜7回紅茶を飲む習慣が広がりました。


ワンポイント豆知識


『イギリスのティータイムいろいろ』

1日に何度も紅茶を飲む習慣は、今でもイギリスでは伝統的に受け継がれています。

『アーリーモーニングティー』
まだ寝ているベッドに、モーニングコールのように熱い紅茶を運ばせて、その一杯で目を覚まそうという贅沢な一杯。飲んでから眠くならないよう、インド茶のアッサムやスリランカのウバなどの渋みの強い紅茶にミルクを入れ、ベッドの上で朝刊に目を通しながら、心地よい朝を迎えます。目覚ましや水分補強の他、何よりもゆとりの精神を育んだことでしょう。

『ブレックファーストティー』
イギリス式のブレックファーストは、フレッシュジュース、ベーコンエッグ、コーンフレーク、魚類、サラダ、トーストなどの盛りだくさんのメニューを、時間をかけてじっくり食べます。その際に飲まれる紅茶は、日本人が朝食の時に飲むような緑茶の感覚に似たもの。葉はさほど高価なものではなくともよく、味はややアクセントのある強めのものが合います。

『イレブンジズティー』
午前11時頃、昼食前のティーブレイクとして10分から15分位で飲まれます。もとは、18世紀初めの貴族の生活から始まった習慣で、ベッドから起き出して、身づくろいをする間に召使いが運んできたという優雅な一杯でした。

『アフタヌーンティー』
午後の3時から5時頃、夕食前の小腹満たしに、サンドイッチやスコーン、ケーキなどと共に飲まれる紅茶。貴族などが行う伝統的なアフタヌーンティーでは日本の茶事に近い感覚があり、招く部屋のインテリアや茶道具がどれだけ洗練されて手入れが行き届いているか、フードはどれだけ豪華か、話題はどれだけ豊富かなど、招待主側のセンスが問われます。イギリスの紅茶文化のメインタイムだけに、イギリス人ならではの美意識とこだわりが凝縮されています。

『ハイティー』
夕方から7〜8時頃までに、労働者などが夕食時に食卓を囲んで家族一緒に楽しんだものが、食卓の高さにちなんでハイティーと呼ばれました。ダイニングと応接間を別に持たない庶民のティータイムを指して使われていました。

『ナイトティー』
夕食が終わってベッドに入る前に読書をしたり、日記を書いたり、ゆったりくつろいで飲む一杯のこと。快適な眠りにつくために、香りの良いリキュールやブランデーを少し落として飲まれることもあります。


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