(1)日本古来の遊びとビール
江戸時代の日本には、さまざまな娯楽があった。当時、世界でも有数の大都市だった江戸をはじめとする都市部では、娯楽の種類も多く、人々は外食、花見、月見、花火、寺社参り、芝居(歌舞伎)、寄席、大相撲、富籤(宝くじ)、矢場(的に矢を射る遊び)などを楽しんでいた。さらに、碁や将棋、貸本も庶民に定着していた。地方でも、四季の行事や祭りが行われていた。
明治以降はこれら従来の娯楽に、西洋から、社交ダンス、西洋音楽、ビリヤード、博覧会、スポーツ、ハイキングなどが新たに加わった。ビールは初め、西洋料理店や西洋から入ってきたレジャーの場で飲まれていたが、しだいに花見や花火見物、温泉地などでも飲まれるようになっていった。
明治の末には、どの花見茶屋でも正宗(日本酒)、ビール、サイダー、桜餅、ゆで卵が用意されていたという。ただし、この頃は誰もが気軽にビールを飲めたわけではない。花見で飲むビールやサイダーは、庶民にとっては特別なものだった。
地方の観光地、温泉地でも明治の末頃からビールが飲まれ始める。江ノ島のように明治初期から外国人観光客を迎えていた場所ではビールの登場も早かった。
修善寺温泉のキリンビアホール(明治屋『嗜好』7巻10号 1914年刊)