高度成長が終わり安定成長期に入ると、人々の意識や生活様式に変化が見られるようになった。女性の社会進出、核家族化、高齢化の進展といった社会構造の変化がその背景にあった。人々のニーズも個性化・多様化し、趣味や嗜好に合わせた選択的消費の時代に入っていった。
ビール業界もこうした変化を受けて、対応を迫られることになる。その一例が容器の変化にも見られる。
缶ビールは1958(昭和33)年に発売されて以来、350ml缶一種類の時期が続いた。だが1972(昭和47)年には家庭用のアルミ製の
500ml缶が発売され、その後、1L缶、250ml缶、135ml缶など多様化が進んだ。
缶は、びんと比べて軽くて壊れにくいため運びやすく、熱伝導率が高いために冷えやすいという利点がある。店頭や自動販売機で冷えたビールを仕事帰りに買って帰るというライフスタイルにも、缶ビールの簡便さはなじんでいた。1970(昭和45)年に1.9%だった缶ビールのビール全体におけるシェアは、1989年には29%(当社推定)にまで増加した。
容器やデザインに特徴を持つ新商品も1980(昭和55)年頃から相次ぎ、ファッション性や機能性が消費者の人気を集めた。ユニークな容器が各社から次々と市場に投入され、1983(昭和58)年には「容器戦争」と呼ばれる状況が生じていた。しかし、目先を変えただけの競争で需要はそれほど伸びず、市場拡大にはつながらなかった。1980年代の中頃にはこの「容器戦争」も沈静化し、ビール市場は中身の多様化時代に入る。